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3mmの隙間があなたを救う?床衝撃音への遮音性確保にやるべきこと

現代の集合住宅において、遮音性能は住民の快適な生活環境を維持するために欠かせない要素です。

しかしながら、遮音性に関するトラブルは依然として多く、その中でも床衝撃音に関する苦情は特に頻繁に発生しています。

本記事では、遮音に関する技術的な背景や課題、そして改善策について考察し、特に「乾式二重床」を採用した集合住宅における遮音性の問題点を解説します

「3mmの隙間」があなたを救うかもしれません!

目次

なぜ床衝撃音の問題が発生するのか?

竣工して間もないマンションで、下階の住民が上階からの歩行音や物を落とす音に悩まされるケースは珍しくありません。

例えば、ある8階建てのマンションでは、5階の住民が6階からの騒音に悩まされ、落ち着かないと苦情を訴えました。

このマンションは鉄筋コンクリート造で、スラブ厚220mmを確保し、さらに乾式二重床を採用しているにもかかわらず、遮音性能が不十分でした。

ここで重要なのは、乾式二重床が音を遮断するはずの構造であるにも関わらず、音が伝わってしまう理由です

床衝撃音の種類とその影響

乾式二重床の遮音性を確認する前に、基本的な知識をおさらいしましょう。

床衝撃音には、大きく分けて重量床衝撃音と軽量床衝撃音の2種類があります。

◆重量床衝撃音:人が歩く音や家具の移動音など、重くて軟らかい物体が床に与える衝撃によって生じる低周波音(主に100Hz未満)が該当します。このタイプの音は、躯体を伝わって下階に響くことが多く、スラブの厚さや床下構造が大きな影響を与えます。

◆軽量床衝撃音:スプーンやコインなど、軽くて硬い物体が床に落ちた際に発生する高周波音(主に100Hz以上)が該当します。この音は、主に床材や仕上げ材を介して伝わり、壁際の納まりが重要な要素となります。

上記の2種類の音を抑えるためには、異なる対策が求められます。

乾式二重床の構造と音の伝わり方

乾式二重床とは、床材を支持脚で支え、コンクリートの躯体から浮かせて設置する構造です。

この浮いた構造により、直接的な音の伝達を防ぎ、遮音性が向上することが期待されます。

下の図が問題になった床の断面図です。

支持脚下には防振ゴムも配置されていて、防音対策バッチリに見えます。

では、何故このマンションでは遮音性能が問題になってしまったのでしょう。

実は、問題となるのは床下の空気です

床材で密閉された空間に閉じ込められた空気が、太鼓のように響いてしまい、上階の音が増幅されて下階に伝わる現象が発生します。(重量衝撃音)

さらに、床材を壁際で支える際に使用される際根太(きわねだ)などの部材を介して、上階の音が躯体に伝達されてしまうケースもあります。(軽量衝撃音)

このような音の伝わり方は、単に床材の選定やスラブ厚だけでは解決できず、床下の空気の動きや施工のディテールにも深く関係しています。

集合住宅における遮音トラブルの背景

住宅リフォーム・紛争処理支援センターのデータによれば、集合住宅における最も多い相談内容は遮音不良です。

ひび割れや雨漏りといった物理的な問題を上回る件数で報告されています。

これは、近年の住宅の気密性の向上が一因と考えられています。

気密性が高まることで室内が静かになり、住民は外部からの音や隣接する住戸からの音に敏感になりやすくなっています。

また、建築基準法では、集合住宅の界壁(部屋と部屋の間の壁)の遮音性能が規定されていますが、床衝撃音に関する規定はありません。

そのため、設計段階で床衝撃音の対策を十分に考慮しないと、竣工後に問題が発生するリスクが高まります。

乾式二重床の遮音性を改善する方法

乾式二重床は、その遮音性だけでなく、配管や配線の自由度が高い点や、異なる床材を組み合わせても高さを揃えやすいといった利便性から、多くの集合住宅で採用されています。

しかし、その遮音性能は、施工方法や設計ディテールに大きく依存します。

対策1:幅木の浮かせ施工

一つの有効な対策は、幅木をフローリングから浮かせる方法です。

具体的には、幅木を2mmほど浮かせて施工することで、床下の空気が抜けやすくなり、太鼓現象を軽減することができます。

また、これにより床材から幅木を介して音が直接伝わらなくなるため、軽量床衝撃音の伝達も防ぐことができます。

対策2:床材と壁の間に隙間を設ける

さらに、床材と壁の間に3mmの隙間を設けることで、床下の空気が逃げる道を作り、重量床衝撃音の伝達を抑えることが可能です。

この隙間は、特に重量床衝撃音の低減に効果的であり、適切に設置された場合、下階に伝わる音のレベルが1ランク下がることもあります。

対策3:支持脚に柔軟な防振ゴムを使用する

乾式二重床の支持脚には、防振ゴムが使用されることが一般的ですが、さらに柔らかい防振ゴムを採用することで、重量床衝撃音をさらに低減させることが可能です。

この場合、床材の剛性を高めるために合板などの補強材を使用し、耐荷重や歩行感を損なわないようにする必要があります。

事前の試験施工と管理の重要性

これらの対策を講じることで、乾式二重床の遮音性能を向上させることができますが、事前の試験施工や施工時の品質管理も非常に重要です。

試験施工を行うことで、実際の遮音性能を確認し、必要に応じて設計を調整することが可能です。

また、施工時には、設計者の指示に従って正確な施工が行われるよう、現場での管理が欠かせません。

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まとめ

集合住宅における床衝撃音の問題は、住民の快適な生活に直結するため、慎重な設計と施工が求められます。

特に乾式二重床を採用する場合、床下の空気の動きや壁際の納まり、支持脚の材質など、細部にわたる配慮が必要です。

今後も集合住宅の気密性が向上する中で、遮音性能の重要性はますます高まると考えられます。

技術者はこれらの問題を認識し、適切な対策を講じることで、住民の快適な生活環境を提供していく必要があります。

参考文献

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