はじめに
ユネスコ本部で創設されたベルサイユ賞の「世界で最も美しい美術館」リストが2024年6月13日に発表され、2014年にプリツカー賞も受賞した坂茂氏が設計した下瀬美術館が選出されました。
下瀬美術館は、2023年3月に広島県大竹市にオープンした美術館です。
水盤に並ぶカラフルなキューブ状の展示室は外観も鮮やかで美しいです。
しかも、その展示室は、水盤の上を移動して、様々な配置することができます。
その他にも、美しい瀬戸内海を望む展望テラス「望洋テラス」、季節の草花が風にそよぐ「エミール・ガレの庭」等、アート作品以外にも建物全体を堪能することが出来る美術館です。
今回は、建築屋さんのペンギンが探訪してきた様子をレポートします。
とても美しい空間でした。是非皆さんにもおススメしたいと思います。
きっと、この記事を読めば、あなたも訪れたいと思うはず!
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写真の一部はプライバシー保護のため加工しています。
建物の概要
本計画では、約46,000㎡の敷地の中に、美術館・ヴィラ・レストラン等様々な用途の建物が点在しています。
メインの建物となる美術館は、建築金物を製造販売する広島の企業オーナーが収集した絵画や、ガラス工芸、人形などのコレクションを展示する私立美術館です。
350mを海に面した美しい景色の敷地ですが、単独の美術館としては敷地が広すぎ、周辺は工場が多い地域であり名所の少ない地域であることから、海に開かれたオーベルジュを併設する計画としたそうです。
下の写真は、現地にある案内図と模型です。
中央にある楕円の建物がエントランス棟で美術館の入口となり、その隣にあるのが企画展示棟、水盤に浮かぶカラフルなBOXが可動展示室です。
その他に点在しているのが、オーベルジュのヴィラで、水盤左側に面するのがレストラン棟です。
可動展示室
この美術館の最大の特色は、水上可動展示室でしょう。
この可動展示室は全部で8個あり、事前に設置パターンを7パターン想定しているそうです。
法律的に同様な手続きが必要であるかまでは、現地に行ってもわかりませんでしたが、恐らく配置を変える度に何等か建築計画・避難経路の変更を届け出るようなことになるように思います。
移動については、台船と言われる箱型の浮き船の技術を用いて、水盤上に浮上し、曳家する形で移動するそうです。
展示してあった可動展示室の移動方法
可動展示室を固定しているアンカーボルト
8つの可動展示室はそれぞれ色鮮やかなカラーガラスに覆われていますが、本美術館の主要なコレクションであるエミール・ガレの作品の色から選択されたそうです。
様々な色合いの可動展示室
可動式であるため、設備系は、各展示室にて完結する必要があります。
内部側からはわかりませんが、上からの写真をみるとガラリがあるので、その位置に空調機が隠れているのでしょう。
当然、設備重量により偏荷重が発生し、浮上時に傾く可能性がありますが、カウンターウエイトを床下に仕込んでバランスしているようです。
また、空調機はともかく、電気配線は本体側から持ってくるのが合理的だと考えられます。
廊下にいくつか配管が可動展示室に伸びていたので、恐らくは電気配線かなと予想しています。
内部廊下を横断し、可動展示室へ伸びる配管
エントランス棟
工学専門のペンギン的に最もよかったのは、エントランス棟です。
エントランス棟は、美術館の玄関となり、ミュージアムショップやカフェが併設されています。
建物全周がミラーガラスに覆われており、室内からは瀬戸内海・水盤・可動展示室が望め、外部側からは周囲の景観を映し出す美しい建物になっています。
また、内部構造は、内部柱に円筒上の木架構を用いて、それがそのまま屋根架構を支えています。
木加工と建物外周のマリオンは接続されていないように見えたので、
「まさか片持ちなのか?」とも思ってしまいましたが、やはり外周部のマリオンは柱としても機能しているそうです。
時々、鏡張になった壁が外壁ラインにあるので、そこにブレースが仕込んであるのでしょうが、それだけで地震力負担できているのか不明でした。
柱の木架構は上部に向かって、曲面を描きながら広がっていきます。
その架構を束ねるように、ガラスリングが結ばれています。
素材がガラスなので、テンションをかけて引っ張ることはできないので、座屈止めとして機能しているのでしょう。
ここも、鋼材ではなく、ガラスを使うところが、細部までの空間の作りこみがされているように感じました。
構造設計を担当されたのは他にも魅力的な木架構建物を多く計画されている㈱KAPさんです。
ダイナミックな構造デザインは訪れた人を魅了するようで、ペンギンJrも空間全体を満喫していました。
エントランス棟も含めて、本記事は「月刊建築技術 2024年5月号」の設計者の記事も参考に作成しています。
今回、触れられていないレストラン棟やヴィラについても、設計や施工時の考え方や工夫どころが満載です。
建築屋さんで現地行かれる方は必携です。
企画展示棟
エントランス棟と管理棟の間にあり、可動展示棟の向かいにあるのが企画展示棟です。
この美術館の外観上の特徴である180m、高さ8.5mのミラーガラス・スクリーンの中央にあり、この巨大なカーテンウォールを支える役割も担っているそうです。
因みに、この巨大なカーテンウォールがある背景は、こちらの施設の裏には大規模なショッピングモールが併設されているため、それを視界から隠すことを意図としています。
また、企画展示棟は、屋上階にある望洋テラスに至るためのランドスケープの盛土下部も一体となっています。
そのため、構造は鉄筋コンクリート造を採用しているようですが、内部空間は柱も細く、スパンも広く、ゆったりとした空間構成となっています。
雑誌に載っている図面によるとポストテンションのPC梁を採用していました。
エミール・ガレの庭
エントランス棟からつながる長い内部廊下の突き当りに、エミール・ガレの庭へ抜ける扉があります。
その扉を抜けると美しい草花に彩られた庭が広がっています。
芸術に疎いペンギンの印象は「モネの絵画の中に入ったよう」でした。
因みに、エミール・ガレは、フランスで有名なガラス工芸家です。(後で調べた)
建物のミラーガラスが庭や空を映し、建物による圧迫感が全くありませんでした。
訪れた日は猛暑で庭に出ていられる時間が限られましたが、春や秋など季節を選んで、もっと長く鑑賞したかった。
望洋テラス
企画展示室の屋上階は、海を臨むことができる望洋テラスとなっています。
望洋テラスへはエントランス棟から外へ出て、長いスロープを登ってアクセスします。
望洋テラスからはカラフルな可動展示室越しに、美しい瀬戸内海を望めます。
テラスにはデッキが敷かれていて、座れるベンチもありました。(暑すぎて誰も座っていませんでした。)
雑誌の図面では、パラペットは打ちっぱなし仕上げでしたが、実際は「パタパタ(打ちっ放し風塗装)されているような気がしました。
展示作品・その他体験談
展示作品
芸術関係に疎い且つ、Jrがどんどん先に進んでしまうため、展示作品を見る暇はほとんどなかったです。
それでも、絵画やガラス工芸、人形等、様々なコレクションが展示されており、見ごたえは十分にありました。
また、展示室内が基本的に写真OKなのも嬉しいポイントです。
その他
エントランス棟内には、カフェが併設されています。
とてもお洒落な雰囲気で、スタッフの方も親切。
景色も綺麗で、高級なホテルのラウンジのような時間を過ごせます。
猛暑の望洋テラスから戻ってきたところだったので、ペンギンJrが
「かき氷食べたいー」となり、しばし休憩。
屋台のかき氷が4つくらい買える値段の山盛りかき氷をいただき大満足。
基本情報
あとがき
「世界一美しい」の通り、自然もアートも楽しめるとても良い空間でした。
また多少騒がしくしてもスタッフの方も優しく見守ってくれており、子供連れでも全く問題ありませんでした。
小学生以下のお子さんは宿泊不可だったので、今回は宿泊できなかったのでいつか泊まりに来てみたいです。
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