建築構造の設計において重要な概念の一つに「座屈」があります。
特に一級建築士試験では、この概念をしっかり理解しておくことが求められます。
何故なら、特に鉄骨造の場合は、「座屈」が柱材の断面を決める重要な要因になるからです。
本記事では、座屈の基本的な原理と計算方法について解説し、試験勉強中の皆さんがこのトピックを効率よく学べるように支援します。
また、実際に「座屈」の考え方を合理的に構造設計に反映している事例を紹介し、皆さんの記憶の定着促し、構造設計者が考えていることをご紹介します。
座屈とは?
座屈とは、構造部材が外力(主に圧縮力)を受けた際に、部材の強度や剛性では耐えられる範囲であっても、予期せぬ方向に変形してしまう現象です。
この変形は、部材の細長さや固定条件によって影響を受け、安全な建築設計のためにはこの現象を適切にコントロールする必要があります。
実は、上記の図は全体座屈といわれる現象で、実際には局部座屈など、種類がありますが、今回は全体座屈について考えます。
全体座屈は、どちら向きに曲がるのか、予想することはできません。
つまり、起こったあとの対策は非常に立てづらい現象であるため、「座屈させない」が構造設計での基本です。
座屈の基本的な理解
座屈現象は、主に細長い柱や梁で発生します。
部材に圧縮力が加わると、ある臨界荷重(座屈荷重)を超えると部材は横に曲がり始めます。
このとき、座屈荷重は以下の式で表されます。(オイラー座屈荷重)
$𝑃𝑐𝑟 = 𝜋2⋅𝐸⋅𝐼(𝐾⋅𝐿)2Pcr = (K⋅L)2π2⋅E⋅I$
ここで、𝐸Eは材料のヤング係数、𝐼Iは断面二次モーメント、𝐿Lは部材の有効長さ、𝐾Kは座屈係数(端条件に依存)です。
受験生として覚えておくべきは、座屈は、断面が細く、長い方が起こりやすいということ。(これはイメージしやすい)
そして、K・Lが2乗で効くことが式からわかり、部材が長いことは、座屈に関して考えると非常に不利ということ。
また、次項で、「座屈」考えるうえで重要となる「端条件(部材端部の固定度)」=Kも2乗で効いていることを知っておきましょう。
端条件と座屈
端条件(部材端部の固定度)は座屈計算において非常に重要です。
固定されているか、ピン接続されているかによって、部材の座屈挙動は大きく変わります。
以下に一般的な端条件と座屈係数𝐾Kの値を示します。
細かな数値は、暗記するほかないですが、一般的な両端ピンを1.0として、
一番固定度が低い「水平移動自由・ピンー固定」が2.0
一番固定度が高い「水平移動高速・固定ー固定」が0.5
その間にあるものは、0.7~1.0の数値になることを覚えればよいので、記憶する量は左程でもありません。
座屈の計算例
ここで、一般的な計算例を示して、理解を深めましょう。例えば、長さ3m、断面が円形で直径が0.1mの鋼の柱が両端ピン支持されている場合の座屈荷重を計算してみましょう。
- 断面二次モーメント𝐼Iの計算:
- $𝐼$ = $\frac{𝜋⋅𝑑4}{64}$ = $\frac{𝜋⋅(0.1)^{4}}{64}$ = $4.908×10^{−6} 𝑚^{4}$
- ヤング係数𝐸Eの適用(鋼の場合、約210 GPa):
- $𝐸=210×10^{9} 𝑃𝑎$
- 座屈荷重𝑃𝑐𝑟Pcrの計算:
- $𝑃𝑐𝑟$=$\frac{𝜋^{2}⋅𝐸⋅𝐼}{(𝐾⋅𝐿)^{2}}$=$\frac{𝜋^{2}⋅210×10^{9}⋅4.908×10^{−6}}{(1⋅3)^{2}}=34.19 𝑘𝑁$
この計算により、柱が座屈する臨界荷重が34.19 kNであることが分かります。
このような計算を行うことで、実際の建築設計や試験の問題でどのように応用されるかが理解できます。
座屈の防止策
さて、座屈を防ぐためには、以下の方法が考えられます。
- 断面の形状を工夫する
- 単純に断面積を増やすだけでなく、高さ方向の断面を大きくするなど、断面二次モーメントが大きくなるように断面形状を工夫することで、座屈荷重を高めることができます。
- 材料の選定
- より高いヤング係数を持つ材料を選定することで、座屈荷重を高めることが可能です。ただ、実際には、木材、鉄骨とコンクリートぐらいしか選択肢がないことを考えると効果は限定的でしょう。
- 支持条件の最適化
- 支持条件を改善することにより、部材の座屈耐力を高めることができます。これが、計画するうえで一番工夫しやすいかと思います。後ほど、実プロジェクトでのような工夫がされているかご紹介します。
- 座屈長さを短くする
- 階高やスパンを短くすることにより、部材の座屈耐力を高めることができます。よく鉄骨造で見られる横補剛材などは、座屈長さを短くするためにつけられています。また、小梁も大梁の座屈を抑える働きがあり、その効果を得るために小梁ピッチが決まることもあります。
大梁横補剛材
実プロジェクトでの応用例
ここで、座屈という課題に対して、計画に合わせて解いている事例を紹介します。
事例は、設計:TNA、構造設計:満田衛資構造計画研究所が設計した、
岡山県にある【カモ井加工紙第三撹拌工場史料館】という建物です。
計画は、粘着テープを専門とするカモ井加工紙さんが保有していたRC造2階建ての工場を資料館へとリノベーションするというものです。
この建物は、元々2階に8つの穴が開いており、リノベーションではその開口部から非常に細い柱を立て、新に設ける屋根を支えている。
写真などを見ると驚くほど、細い柱である。
支えるのは屋根だけなので、支持力として十分なのでは?と感じられるかもしれないが、構造設計者感覚では、これまで勉強してきたように座屈が非常に心配になります。
吹き抜け部分を通しているので、座屈長さは2層分となり、座屈に非常に不利です。
そこで構造設計者は、既存のRC壁部分から柱を立て、屋根全体の動き拘束に近くすることで、座屈係数を小さくする工夫をしています。
これにより、細柱を実現し、屋根が浮いているような不思議な空間を演出できている、素晴らしい作品だと思います。
(引用:構造デザインの現場 図書印刷株式会社)
まとめ
一級建築士試験において、座屈は避けて通れない重要なトピピックです。
実際の建物設計においても、座屈による失敗を避けるためにこれらの原理を適用することが求められます。
ここで解説した座屈の概念を把握し、実際の問題解決に活かしていただけると幸いです。
この記事が試験勉強の助けとなり、建築構造分野での深い理解へと繋がることを願っています。
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