はじめに
近年、外部階段やバルコニーからの転落事故が報告されています。
政府もバルコニーなどのからの落下に警鐘を鳴らしています。<政府広報オンライン>
特に、多くの人が訪れる建物や子供も活用する施設においては、安全性への配慮が一層求められています。
今回は、外部階段等の手すりに関する設計上の留意点と具体的な対策案について、法規制や任意基準を基に考えます。
自分が設計・建設した建物での事故は絶対に避けたいですよね。
基本的な知識を身に着けて、安全な建物を設計・建設できるスキルを身につけましょう。
階段手すり設計での問題
設計者は、外部階段の手すりなどはデザインとして、シンプルで無駄のない美しさを追求したいものです。
今回例に挙げる手すりは、手すりの下に直径13mmの丸鋼を水平方向に配置し、踊り場部分には下から15~20cm間隔で3本の横桟を設けるというものです。
手すり自体の高さは建築基準法を満足する1.1mです。
この設計は、ある点で重大な問題があります。
どういった点が問題となるかわかるでしょうか?
手すりに関する法規制と設計者責任
日本の建築基準法において、手すりや柵に関する具体的な規定は意外にも少ないです。
例えば、「階段には手すりを設けること」や「バルコニーには高さ1.1m以上の手すり壁や柵を設けること」程度しか定められておらず、手すりの形状や桟の配置に関する詳細な規定は存在しません。
手すりに関する主な建築基準法項目
そのため、上述のような手すり設計も違法ではありません。
しかしながら、例に挙げた手すりでは子供がその隙間を通り抜けたり、よじ登ったりするリスクが考慮されていません。
このように、建物利用者が考える行動の範囲内で生じた事故については、建築基準法を満足していたとしても、設計者が注意義務を怠ったとみなされ、責任を問われる可能性があります。
手すり安全性を高めるための任意基準と具体策
安全な手すり設計を行うためには、いくつかの任意基準が存在します。
例えば、2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づく住宅性能表示制度では、設置場所に応じた手すりの条件を定めています。
住宅性能表示制度における手すりの主な基準
これにより、幼児がよじ登ったりすり抜けたりすることを防ぐための腰壁の高さや隙間の限度が示されています。
具体的な対策としては、以下のような方法が考えられます:
- 柵の高さを1.1m以上に設定:バルコニーの基準を参考にし、転落を防止するために、床面から高さ1.1m以上の柵を設けます。
- 手すりの設置位置の見直し:階段の踏み面の先端から高さ70~90cmの握りやすい位置に手すりを設けることで、より安全に使用できるようにします。
- 縦桟の配置:横桟ではなく縦桟を用いることで、子供がよじ登りにくくする設計が推奨されます。また、桟同士の隙間を11cm以下にすることで、子供の頭が通らないようにする工夫も重要です。
- 透明な素材の使用:桟の代わりに、合わせガラスやアクリル板、ポリカーボネート板を使用して手すりを支える方法も有効です。これにより、視覚的な障害を減らしつつ安全性を確保できます。
安全性に配慮した階段手すり例
結論
外部階段やバルコニーの手すり設計における安全性は、法律での義務だけでなく、実際の利用者の安全を確保するための重要な要素です。
技術者として、設計における安全性の意識を高め、実践に移すことが求められます。
特に、子供や高齢者など、転落のリスクが高い利用者に配慮した設計を行うことは、建築物の安全性を高めるために不可欠です。
設計の段階でこうしたリスクを考慮することが、事故を未然に防ぎ、社会に安心と安全を提供する建築を実現するための第一歩となるでしょう。
参考文献
この記事は、「設計ミスを防ぐ建築実務の勘所 Kindle版」を参考に作成しました。
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