国土交通省の推計によると、解体工事数は今後増加し、2028年頃にピークを迎えるとされています。※
また、2000年に施行された建設リサイクル法やアスベストの適正処理など、社会状況も変化してきています。
そのような背景から、建築学会は「建築物の解体工事施工指針(鉄筋コンクリート造編・鉄骨造編)」を発刊しました。
今回は、2024年に制定された「建築物の解体工事施工指針(鉄筋コンクリート造編・鉄骨造編)」を要約して紹介し、その意義と内容について深掘りします。
鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建築物は、その構造上の特性から解体工事には専門的な知識と技術が必要です。
そのうえで、施工者はもちろん発注者も理解しておくべき内容が多数あるのが解体工事です。
この指針はそれらが非常にわかりやすくまとめられていました。
ぜひ手に取って参考にしてみてください。
指針制定の背景
国土交通省の推計によれば、吹き付けアスベスト等を含む建築材料を使用している可能性がある鉄骨造・鉄筋コンクリート造の民間建築物の解体工事件数は、今後増加し2028年ころにピークを迎えるとされています。
(引用:国土交通省HP)
鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建築物の解体では、正しいプロセスでの事前調査、安全・環境に配慮した施工、建設廃棄物の正しい処理など、専門的な知識が求められます。
しかし、1998年に制定された「鉄骨コンクリート造建築物等の解体工事施工指針(案)・同解説」以降、解体工事に関して、明確な指針などは建築学会からは示されていませんでした。
それ以降の建設リサイクル法やアスベストの適正処理など社会状況の変化に対応した資料が必要となったこと、
2016年に「建設工事業」が新設され、行政・業界ともに新たな「解体工事」の整備が求められたことが、
今回の発刊につながったとされています。
指針の概要
目次
「建築物の解体工事施工指針(鉄筋コンクリート造編・鉄骨造編)」の目次は下記の通りです。
大まかには、
1章から3章までが、解体工事に関する用語の定義や基本的な考え方、工法の一般論などが記載されています。
4章から6章までが、解体工事の事前調査・計画・施工までの具体的な方法やフロー、届出等がまとめられています。
7章から9章までが、解体工事で出る建設廃棄物の処理についてまとめられています。
解体工事を工学へ(1章から3章までのハイライト)
1章から3章までは、解体工事に関する用語の定義や基本的な考え方、工法の一般論などが記載されています。
特に、2章には、今回この指針を定めるにあたっての肝となる考え方が示されています。
昨今の建築工事は、「性能」を規定して、設計や施工することが浸透してきました。
一方、解体工事では、構造体が構築されるのではなく、完全に撤去されてしまうため、最終的に何かの物質的な存在があるわけではなく、「性能」をどのように規定するか?ということが問われます。
指針では、その「性能」を「安全性能」と「環境性能」の2つに分け、一連の工事のプロセスが適正に行われることを規定することにしています。
つまり、安全で、環境負荷の小さい方法により解体するための目標やプロセスが本指針で示されています。
講習会の冒頭で指針作成者が「解体工事を工学にするべく指針を作成した。」と述べられていたのが印象的でした。
そのほか、解体工事における「発注者」「施工者(元請け)」「施工者(下請け)」の役割分担も規定されており、
学会の指針が示したことで、施工者は発注者に対し、不当な請負工事とならないよう主張しやすくなったと言えます。
作業中の抜け漏れを防ごう(4章から6章までのハイライト)
4章から6章までが、解体工事の事前調査・計画・施工までの具体的な方法やフロー、届出等がまとめられています。
実務を行う人の中では当たり前の項目かもしれませんが、行政への届け出関係が提出期限も含めて一覧でまとめられており、届出忘れを防ぐ意味でも、工事ごとに一読したい内容になっています。
また、具体的な解体工事の計画についても、解体工法の選定フローが示されており、
「作業性」「安全性」「公害特性」「責任処理」の観点から抜け漏れなく確認することに役立ちます。
具体の施工の章では、安全に関するチェックポイントがまとめられており、施工時に施行者はもちろん発注者も確認すべき内容となっています。
発注者も必ず読みたい廃棄物処理(7章から9章までのハイライト)
7章から9章までが、解体工事で出る建設廃棄物の処理についてまとめられています。
7章が建設廃棄物の処理全般について
8章と9章に、それぞれ「特別管理産業廃棄物および特殊な建設副産物」と「石綿(アスベスト)含有建材」について別途詳しくまとめられています。
廃棄物の分類について、図自体は1章の総則についているものですが、下図が非常にわかりやすいです。
この図を基にそれぞれの廃棄物について、「現場での保存」「処理計画」「運搬や処分方法」「処分の報告」などについて、わかりやすくまとめられています
また、産業廃棄物は基本的に発注者が元請け事業者へ依頼するものですが、発注者側理解しておくべき内容や、委託契約書のひな型も提示してくれています。
建設廃棄物を正しく取り扱うために、発注者側も一読されると良いでしょう。
まとめ<なぜこの指針を読むべきなのか?>
なぜこの指針を読むべきかまとめます。
建築業界のプロフェッショナルはもちろん、都市開発や環境保全に関心のある方々にとって、この指針は貴重な知識源です。
解体工事の最新の技術や方法を学びことで、安全かつ環境に優しい都市再生を実現するための一助となるでしょう。
- 国土交通省の推計によると、解体工事数は今後増加し、2028年にピークを迎える見込み。
- 2000年施行の建設リサイクル法やアスベストの適正処理など、社会状況の変化に伴い、建築学会が「建築物の解体工事施工指針(鉄筋コンクリート造編・鉄骨造編)」を2024年に発刊。
- 鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建築物解体には専門知識と技術が必要であり、施工者だけでなく発注者も理解すべき内容が多い。
- 指針は解体工事の用語定義、基本的な考え方、工法の一般論、事前調査・計画・施工の方法、建設廃棄物の処理方法などをわかりやすくまとめている。
- 解体工事の「安全性能」と「環境性能」を重視し、適正な工事プロセスを規定。
- 解体工事を工学の一分野として確立しようとする意図がある。
- 解体工事に関わる各役割の明確化を促し、不当な請負工事を防ぐ。
- 解体工事の事前調査・計画・施工の具体的なフローを提供し、抜け漏れを防ぐ。
- 建設廃棄物の正しい処理方法を詳細に説明し、発注者にも理解を促す。
- 社会状況の変化に対応し、解体工事の安全性と環境負荷の低減を目指す指針の発刊は、業界にとって重要なステップ。
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