鉄筋コンクリート造建物において、美観や耐久性の確保ために、ひび割れの制御は重要です。
今回は、ひび割れを制御するうえで最も用いられる誘発目地について、
誘発目地がうまく機能せず失敗してしまうパターンとその要因を学び、有効な対策までを紹介します。
この記事を読めば、正しいひび割れの知識とその制御方法を知ることができ、より美しく、耐久性の高い建物の実現ができます。
この記事には、Google Adsense広告・Amazonアフィリエイトのリンクが貼られています。
誘発目地の失敗パターンを知ろう
誘発目地が機能しないパターンには大きく分けて3つあります。
失敗パターン1:目地にひび割れは発生しているが、目地以外の部分にもひび割れが発生してしまうケース。
失敗パターン2:目地にひび割れが発生せずに、別の場所でひび割れが発生してしまうケース
失敗パターン3:建物の端部にて斜め方向にひび割れが発生してしまうケース
(日経XTECH記事より引用)
失敗パターンの原因と対策
失敗パターン1:誘発目地以外の部分にもひび割れが発生してしまうケース
失敗パターン1の要因は、誘発目地間隔が大きいためです。
このケースに陥るのは、意外にも鉄筋量を増やした場合です。
そもそも、収縮によるひび割れの要因は、
「コンクリートが収縮すること」と「収集するコンクリートを拘束すること」によります。
コンクリートの収縮は、使用材料や打設時期などにより決まり
コンクリートの拘束は、周辺の部材構成や断面により決まります。
この2つでその部分の凡そのひび割れ幅の総量が決まり、それが数本のひび割れに分かれて出現します。
式にして記載すると
「ひび割れ幅総量」=「ひび割れ本数」×「1本あたりのひび割れ幅」
となります。
ひび割れ幅の総量は、上記の通り、使用材料や周辺の状況により決定するため、ある条件の定数です。
ひび割れを制御しようと、鉄筋量を増やすことをしますが、実は、鉄筋を増やすことにより1本あたりのひび割れ幅を小さくなります。
上記の式から考えると、鉄筋量を増やすとひび割れ本数は増えることになります。
つまり、鉄筋量を増やすことにより、誘発目地も増やさなくてはいけません。
しかし、鉄筋量を増やすことでひび割れ数が減るという誤った認識により、誘発目地を増やさないので、失敗パターン1となってしまいます。
漏水リスクは、ひび割れ幅の3乗に比例して増加するともいわれているので、鉄筋量は増やすこと自体は、漏水リスクを低減するうえでは有効であるが、正しい関係性を理解しておきましょう。
失敗パターン2:別の場所でひび割れが発生してしまうケース
失敗2パターンの要因は、目地深さが足りない為です。
誘発目地は、RC躯体に対して断面欠損部を作り、わざと弱点となる部分を作り、その場所にひび割れを誘発します。
しかし、弱点にならない程度の断面欠損では、うまく目地部にひび割れを誘発することができません。
では、どの程度の断面欠損とすればよいのでしょうか?
日本建築学会の「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針・同解説」には、
「誘発目地の深さは、施工時の実壁厚さに対して5分の1以上とし、かつ誘発目地の間隔は3m以下とする。」
とあります。
つまり、誘発目地として有効な断面欠損は凡そ20%ということになります。
しかし、これが結構難しいのです。
例えば、180mmの耐力壁の外壁に対して、外側に20mmのふかしを設けて、200mmのRC壁とする場合、
必要な断面欠損率は200mm×0.2=40mmです。
外側には20mmのふかしがありますが、残りの20mmは耐力壁の断面欠損となってしまいます。
耐力壁の断面欠損とならないように、ふかしを増やすと、その分必要な断面欠損厚が増えるという「いたちごっこ」が始まり、非常に頭を悩ませることになります。
「絶対無理じゃないか!!」と言いたくなりますが、実は比較的簡単に良い手があります。
それは、目地部分の内側に専用のプレートや鉄筋を通して、内部側で断面欠損を起こす方法です。
例えば、鹿島建設などの大手ゼネコンでは専用の金具などが工法として発表されています。
しかし、こちらは専用のプレートを使うことで費用も掛かりますが、実は異形鉄筋を仕込むだけでも同じような効果を得ることができます。
ぜひ、取り入れていただければと思います。
誘発目地部から鉄筋の錆汁が出てくる場合も考慮して、周囲の鉄筋に錆止めしておくなど配慮するとなおよいでしょう。
失敗パターン3:建物の端部にて斜め方向にひび割れが発生してしまうケース
失敗パターン3は、建物端部で斜めの方向のひび割れが生じてしまうケースです。
この斜めひび割れの発生要因は、下の図のようにコンクリートが乾燥や温度低下によって、収縮しようとするが、
梁や柱などにより拘束されるために生じます。
特に、四隅は斜め方向に縮みますが、誘発目地は通常縦方向に入れる為、誘発目地の効果が薄れ、目地以外の斜めひび割れが発生してしまいます。
失敗パターン3は、メカニズム上、誘発目地だけで対策することは難しく、斜め方向の補強筋や溶接金網を設置しておくことが多いです。
まとめ
- 失敗パターン1:目地以外の部分にもひび割れが発生
- 原因:誘発目地間隔が大きすぎる。特に、鉄筋量を増やした場合に発生しやすい。
- 対策:鉄筋量を増やす場合は、誘発目地も増やす必要がある。
- 失敗パターン2:目地にひび割れが発生せず、別の場所でひび割れが発生
- 原因:目地深さが不足しているため。
- 対策:誘発目地の深さを施工時の実壁厚さの5分の1以上にし、間隔を3m以下にする。また、内側に専用のプレートや鉄筋を通して内部で断面欠損を起こす方法が有効。
- 失敗パターン3:建物の端部で斜め方向にひび割れが発生
- 原因:コンクリートの乾燥や温度低下による収縮が、梁や柱によって拘束されるため。
- 対策:誘発目地だけでは対応困難で、斜め方向の補強筋や溶接金網の設置が有効。
書籍紹介
この記事は、下記の書籍を参考にしています。
ひび割れに関する知識が盛りだくさんの良書です。
「コンクリートの新知見 ひび割れトラブル完全克服法」
コメント