2023年8月に13年ぶりに「各種合成構造設計指針・同解説」が改定されました。
同指針の第4編にあるのが「各種アンカー指針」
ぶっちゃけると今回はこの部分を改定するため、
他の部分はまだ議論の途中だけど、リリースされたらしいです。
それは何故かというと、
あと施工アンカーに対する扱いについて、明示の社会的要望が強かったから。
あと施工アンカーは、耐震補強だけではなく
設備機器の設置や外装材の取り付けにも使用される非常に便利なツールです。
しかし、種類も豊富で、法的な取り扱いも難しい為、混乱する方が多いと思います。
今回は、「各種合成構造設計指針・同解説」の改定のポイントをまとめ、
どの場所にどのようなあと施工アンカーを利用出来るか解説しました。
この記事を読めば、
場所ごとに適切なあと施工アンカーを選定できるようになります!
各種合成構造指針の改定概要
あと施工アンカーは便利なツールであるため、
使用拡大が徐々に進んできています。
その動きに合わせて、建築学会においても各種合成構造指針で下記の改定が行われ、使用者への共通認識を促しています。
今回の各種合成構造指針の改定のポイントは2つです。
- 使用用途に合わせたアンカーの強度分類を定義
- 金属系アンカーの使用箇所ごとの利用方法を記載
以下にそれぞれについて解説します。
あと施工アンカーの強度分類
指針では、工法等によって性能に差が出るあと施工アンカーについて、適用の範囲と確保する性能の区別ごとにS種、A種、B種の3種類に分類しています。
S種は、
構造体の主筋の定着を含む一般の定着部に用いるアンカーのことを指し、柱梁の主筋・スラブ筋の定着での用途であり、通常あと施工アンカーでは行わないこともあり指針の対象外としています。
A種は、
設備機器類の固定や耐震補強用の後打ち耐震壁やブレースでの接合部を想定しています。
その他にも、外装材や、吊り下げものに用いるあと施工アンカーについてもA種が求められるとしています。
因みに、耐震補強に用いるブレース等で用いるあと施工アンカーは下図の様な感じです。
結構ゴツイものや、重要なものを取り付けるにはA種で求められると覚えておきましょう。
(引用:JCAA 日本建設あと施工アンカー協会HP)
B種は、
主として、簡易な取付方法による設備機器類の固定に用いるもので、
2010年版では資料として掲載されていた金属拡張アンカーがB種として本文に記載されています。
これにより、扱いの不明瞭だった金属拡張アンカーに一定の市民権を認める形になっています。
しかし、金属拡張アンカーは種類も豊富で、未だに不明瞭な点が多いとして、アンカーの種類、適用範囲、適用箇所制限が課されており、各種合成構造指針では、A種としての使用は出来ないとされています。
機器固定に用いるアンカーの適用と選定
改訂された各種合成構造指針では、
B種の機器固定用アンカーについて、設置場所毎の選定基準が明示されています。
ここでは、設置場所に下記4つを想定しています。
a) 機器用に設けられた堅固な基礎
b) 一般的な床スラブ上面(見下げ方向)
c) 一般的な床スラブ下面&小梁下面(見上げ方向)
d) 一般的なコンクリート壁面(横方向)
b)~d)の「一般的な」とは、「アンカー設置の為に強度上特別な配慮がされいない」ということを指しています。
(部分的に配筋を増やす・コンクリート強度を上げるなどはしていないという事だと考えられます。)
表に示す「ー」は設置できない、または施工できないアンカーを示しています。
「〇」は使用に適したアンカーである。「△」は使用に際して注意が必要なアンカーであることを示しています。
表にはいくつも注釈がついているので、その点も踏まえて解説します。
a)堅固な基礎
a)堅固な基礎へのあと施工アンカーは、金属拡張アンカー・接着系アンカーのいづれもが使用に適したアンカーとなっています。接着系アンカーでは、埋め込み深さの注意がされていますが、当たり前に確保されるものなので気にする必要もないでしょう。
b)床スラブ上部
b)床スラブ上部へのあと施工アンカーについても、金属拡張アンカー・接着系アンカーのいづれもが使用に適したアンカーとなっている。
しかし、床面の場合は、基準階のスラブは一般的に150mm~200mm程度しかなく、接着系アンカーの埋め込み長さを満足できない場合があるため「△」で注意書きがされています。特に、D13以上の接着系アンカーを使う場合は埋め込み長さを満足できるスラブ厚さがあるか十分確認しましょう。
c)スラブ・小梁下面
c)スラブ・小梁下面の場合、基本的には見上げ方向での施工となることや、常時引張荷重が作用することから、金属拡張アンカーは「ー」の表記となり使用できないことになっています。
注意書きによると、機械施工であり、且つコンクリートのひび割れに配慮されることで、金属拡張アンカーの性能が確保できる場合は使用できるとされています。
その為、例えば、常時圧縮となる小梁の端部等では使用の可能性もあり得ます。
しかし、実際にひび割れのないコンクリートはないことを考えると、使用することは避けるべきでしょう。
また、接着系アンカーについても「△」表記となり、使用するには注意が必要です。
つまり、あと施工アンカーをスラブや小梁の下面に使うことは基本的に避けるべきであり、仮に使用する場合も、フェールセーフを十分に考える必要があるでしょう。
d)壁面
d)壁面については、厚さが100mm程度のものあるため、埋め込み長さを考慮し、金属拡張アンカー及び接着系アンカーのいづれも「△」表記である。
比較的一般的な注意事項であり、どちらのあと施工アンカーを使用できると考えてよいでしょう。
これまでの内容をざっくりまとめると、
スラブや小梁の下面(上向き使用)以外は、B種としては、金属拡張アンカーも接着系アンカーも利用可能であると考えて良いでしょう。
まとめ
各種合成構造指針が改定され、あと施工アンカーの種別が定義されました。
S種:鉄筋定着並みの性能。指針の対象外
A種:重要であったり、重量の大きいものをしっかり固定するためのあと施工アンカー
B種:簡易な取付方法が認められる設備機器類に使うあと施工アンカー
金属拡張アンカーはB種としてしか使えない。
B種の場合は、スラブや小梁の下面(上向き使用)以外は、金属拡張アンカーも接着系アンカーも使える。
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