建物設計において、天井の高さを適切に設定することは、快適で機能的な環境を作るために非常に重要です。
都市計画区域では、建蔽率や容積率の制限及び建物の高さ制限があります。
不動産としての建物では、限られた敷地に最大限の床面積を確保するために、最小限の天井高さでの階高とすることで階数を増やすことも要求されます。
しかし、天井の裏にある「天井懐」のイメージが出来ていないと、建物階高の設定を見誤ってしまいます。
特に若手技術者の方々は、設備や構造の梁に関する知識を深め、慎重に設計を進める必要があります。
以下に、天井高さ・階高の設定のポイントと注意点を実務に役立つレベル解説します。
天井高さと階高の基本理解
天井高さとは、床面から天井面までの垂直距離を指し、居住性や開放感に直接影響します。
一方、階高は一つの階の床面から直上の階の床面までの高さ(スラブ天端からスラブ天端まで)で、天井高さに加えて床や天井内部の設備スペースを含みます。
階高の構成を簡単に表現すると
階高=天井高さ+天井懐+スラブ厚さ+床仕上げ厚さ
となります。
これらの基本的な概念を理解することが、適切な設計の第一歩となります。
一般的な天井高さの基準
建築基準法では、建築基準法施行令第21条により居室の天井高さは2,100mm以上と定められています。
マンションなどの場合は、折上げ部分の平均の取り方を間違えて、基準法を満たせないエラーが発生することがあるので気をつけましょう。
また、一般的なオフィスでは2,500~2,800mmの天井高さが採用され、広いフロアでは3,000mm以上が望ましいとされています。
これにより、開放感のある快適な作業環境を実現できます。
近年は、天井を敢えて張らない空間も増えてきていますが、塗装などにより見せられる直天井として仕上げる必要がでてくることや、空調効率が下がってしまうことは設計者として理解しておくべきでしょう。
また、施工上の注意点として、オフィスなどの広い均一な空間の天井は、目の錯覚で中央部分が下がっているように見えます。
予め、中央部分は少しだけ、持ち上げるつもりで造ることが、よりよい空間づくりへとつながります。
床仕上げや天井懐
階高を決める重要な要素である「床仕上げ」「天井懐」について
まず、床仕上げについては、従前のプロジェクトなども参考に、お客さんが求める機能を満足できるように決定しましょう。
防振フローリング、フリーアクセスフロア、場合によっては、防水層を必要とする可能性もありますの注意が必要です。
一方で、これまで、フリーアクセスフロアは100㎜程度を見込むことが通例でしたが、wifiによるネットワーク接続が当たり前になり、床下配線量が少なったことで、50㎜程度でも十分であるケースも多いです。
天井内には、空調、照明、給排水、電気配線などの設備が配置されます。
これらの設備を適切に収めるためには、天井裏のスペース(「天井懐」)を十分に確保する必要があります。
特に、ドレンや排水系の設備配管は、勾配を確保する必要があるため、大きな空間を横切る必要があるときは、考えていたよりも天井懐が大きく必要なケースもあります。
梁貫通により解決できる場合もありますが、梁貫通の縦方向にも規定があり、既製品を使ったとしても通せる高さに限界があります。
設計の初期段階から、意匠設計者・構造設計者・設備設計者で、階高設定の肝になる場所を特定して、方針を決めておくのがよいでしょう。
変更する時が一番危ない
これまで解説した内容は、ノウハウとして蓄積されており、当初からエラーに繋がることは少ないです。
しかし、最もエラーが発生するタイミングは、当初設計からの変更を要求された時です。
例えば、コストが合わずに VEをする場合や、お客さんから天井高さの変更などを要求された場合です。
鉄骨量を下げる為に、余力のある上階の梁鉄骨の断面寸法を下げる計画としたが、設備の梁貫通を通す為の寸法を確保できていなかった。
お客さんから天井高さを上げる要望があった際、天井懐を見ると少しだけ余裕があるように見えたので、天井高を50㎜程度上げる計画とした。
しかし、現場段階で天井照明位置と鉄骨梁位置をプロットしてみると、重なる部分があり、梁と照明機器が干渉し、50mm天井高を上げることが出来ない箇所があることが発覚した。
などです。
1つ目は、設計者が途中で変わった場合に、生じがちなエラーです。
2つ目は、1つの断面しか確認せずに判断してしまったことで生じるエラーです。
設計中や現場の段階で、天井高さや階高に関わる変更が生じた場合には、
その場ですぐに判断せずに、当初設計の設定根拠、天井懐内の設備を全部を整理したうえで、可否を判断するようにしましょう。
「それらを確認せずに、絶対に安易に天井高さや階高を変更しないこと。」
まとめ
若手技術者が事務所ビルの天井高さを適切に設定するためには、設備や構造の梁に関する知識を深め、設計初期段階から詳細に検討することが不可欠です。
これにより、快適で機能的なオフィス環境を実現し、将来的なトラブルを未然に防ぐことができます。また、法規制を遵守しつつ、デザイン性や将来の柔軟性も考慮した設計を心がけることが重要です。
天井高さや階高の設定は、建物の快適性や機能性に大きな影響を与える重要な要素です。
本記事では、設計における基本的な考え方から注意点までを解説しました。
- 天井高さと階高の基本理解
- 天井高さは居住性や開放感に直結する要素。
- 階高を正しく設定する為に、構成要素を正しく理解する。
- 一般的な基準
- 居室の天井高さは建築基準法で2,100mm以上が規定されている。(マンション注意)
- オフィスでは2,500~2,800mmが一般的で、広いフロアでは3,000mm以上が望ましい。
- 天井懐と床仕上げの重要性
- 天井懐には空調や配管などの設備が収まるため、十分なスペースを確保する必要がある。
- 床仕上げはプロジェクトごとに機能性を検討し、フリーアクセスフロアの厚さも最新の要件に合わせて調整。
- 設計の初期段階での計画
- 意匠・構造・設備設計者が連携し、重要な階高設定ポイントを特定して方針を共有する。
- 設計変更時の注意点
- 天井高さや階高の変更が必要になった場合、当初の設計根拠や設備条件を再確認し、慎重に判断することが重要。
- エラーを防ぐため、変更は即断せずに必ず全体の整合性を検証する。
これらのポイント・ルールをを押さえることで、より良い設計と施工を実現できます。
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