建築業界で長い間「扱いが難しい」とされてきた「あと施工アンカー」ですが、この度、法改正に対応した新設計・施工法が清水建設と日本ヒルティから発表されました。
清水建設自ら「地味な技術」と評されていますが、関係者にとっては非常に革新的な技術と言えるでしょう。
この記事では、あと施工アンカーの基本と、今回の清水建設の発表にどういった意味があるのかについて、背景から解説することで、直ぐにあなたの実務に役立つ情報と今後の展望に関する情報をご提供します。
まず結論!今回の発表何が凄い?
今回、清水建設は22年に行われた法改正に合致する「強度指定あと施工アンカー」によるRC躯体に鉄骨小梁接合の設計・施工の大臣認定を取得しました。
これにより、鉄骨小梁の後付けが短工期・低コストで可能になります。
清水建設によると、従来の方法と比べて、工期は70%短縮、工事費は15%削減、廃棄物はほぼゼロという画期的な技術と発表しています。
建築施工の柔軟性が飛躍的に向上し、生産施設やデザイン性の高い建築でも、後付け補強がスムーズになります。
また、今後はこれまで以上に既存建物を利活用を求められますが、
「法適合の為に鉄骨階段を増設する」
「一部減築の為に床開口とするための、スラブ端部補強」
など、これまでは困難であった工事も容易に対応が可能になるため、時流を捉えた素晴らしい技術である点が、本工法の最も優れた点と言えるでしょう。
(引用:清水建設HP)
「あと施工アンカー」って何?
「あと施工アンカー」とは、既存のRC(鉄筋コンクリート)に後付けで部材を固定することが出来る工法です。
通常のアンカーは建設時に埋め込むのに対し、「あと施工アンカー」は完成後に設置できます。
ただし、法改正が行われるまでは 建築指定材料とされず 新築物件での使用は認められていませんでした。
また、耐震補強工事なのでは使用することが可能でしたが、長期の引っ張り荷重に対する許容耐力が定義されていないため、長期荷重を負担するスラブや小梁などには使用することができませんでした。
そのため、当該部材に施工の誤りや 補強が必要になった場合には、従来は、コンクリートを削り(はつり)、再度配筋等をやり直し、コンクリートを再打設するという大がかりな作業が必要でした。
しかし、清水建設の強度指定技術により、ハンマードリルで穴を開け、接着剤を注入するだけで済むようになりました。
(引用:清水建設HP)
「強度指定」取得の意義とは?
2022年3月31日に施行された国土交通省告示の改正 により、「強度指定」を取得したあと施工アンカーは、新築建物の主要構造部材(壁・柱・小梁・床スラブ)にも適用可能 になりました。
これまでは、構造的に重要な部材を後付けする際の規定が曖昧で、大規模な補強工事が必要でした。
しかし、今回の技術で 「あとからでも強度が保証された部材を追加できる」 という新たな選択肢が生まれました。
強度指定は「あと施工アンカー単体」と「構造部材」に分かれており、強度指定を取得した「あと施工アンカー単体」を用いて、下図等のように使用する「構造部材」を定義し、その使用方法に対して「構造部材」の強度指定を取得するということになります。
今回は、「あと施工アンカー単体」を日本ヒルティ、「構造部材」を清水建設が取得したとされています。
施工方法の概要 簡単&短時間
清水建設のあと施工アンカーは、日本ヒルティと共同開発 された最新の技術を活用しています。
施工の流れは以下のとおり:
1. 専用の補助金具を設置
2. ハンマードリルで穴を開ける
3. ディスペンサーで接着剤を注入
4. アンカーを挿入し、固定これまで数日かかっていた作業が、わずか10分程度で完了 します。
しかも、ハンマードリルには 集じん機能 がついているため、粉じん処理も不要としています。
(性能に関わるので、粉じんが削孔部に残っていないことは確認が必要だとは思いますが。)
今後展望
清水建設は、今回の「鉄骨小梁」での強度指定取得を皮切りに、RC部材や木造部材 でも適用範囲を広げていく方針です。
現状は、清水建設のみが可能な工法ということになりますが、今後は、その他のゼネコンも同様な動きを取る為、徐々に世の中で当たり前に使われる技術となっていくことは間違いないでしょう。
ただし、今回の取得の為に、清水建設では500体を超える試験体を作成して実験を行っています。
同様な実験を行えるゼネコンは多くはない為、
・評価する側の手法の成熟による評価の簡略化
・当該工法を用いた魅力的な実PJが社会認知され需要が拡大
等が、より早い普及には必要になると考えられます。
実際に活用されたPJを早く見てみたいですね。
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